幼虫期の資源利用行動が成虫期の繁殖投資を変える
Katsuki, M., Toquenaga, Y. & Miyatake, T. (2013) Larval competition causes the differece in male ejaculate expenditure in Callosobruchus maculatus. Population Ecology 55(3): 493-498.
オスの適応度は,配偶者や自身の遺伝子を持つ子どもをいかに多く獲得できるかで決定します.そのために,配偶者や卵の受精をめぐるオス間での繁殖競争がしばしば生じます.このオス間競争のおこるリスクや激しさの度合いには,性比や密度,餌資源の質や量など,さまざまな要因が関わっています.そしてこの選択圧に応じて,オスの繁殖形質が決まります.今回の研究では,繁殖への投資量に影響を与える要因として,幼虫期の資源利用行動の違いに注目しています.
ヨツモンマメゾウムシは,その名の通り,アズキなどの豆類を幼虫の餌資源として利用しており,メスはその表面に卵を産みつけます.1つのアズキに産みつけられる卵の数は,餌資源量やメスの密度によって変わりますが,幼虫が発育する過程で,同じマメを利用する他個体と遭遇することがあります.その時ヨツモンマメゾウムシでは,他個体をかみ殺して資源を占領するコンテストタイプと,他個体を排除せずに資源を共有するスクランブルタイプの2タイプがみられます.この幼虫期にみられる他個体の排除行動が,成虫期の個体密度,つまりライバルオスの数や遭遇するメスの数に違いをもたらすと考えられます.そのため,より多くの成虫が出現するスクランブルタイプでは,繁殖時のオス間の競争が激しくなるため,この競争に勝つために繁殖形質への投資量が多いオスが選択されるだろうと考えました.そこで、幼虫の行動(コンテストとスクランブル)の頻度が異なるさまざまな系統を用いて,オス成虫がメスと交尾する際の射精量を調べてみました.その結果,スクランブルタイプのオスは,コンテストタイプのオスよりも射精量が多いことがわかりました.
今回の結果から、幼虫期の行動(資源利用の違い)が成虫期の繁殖投資に大きく影響を与えているということがわかりました.これは,性選択の選択圧に関わる要因の多様さと複雑さを示しています.今回は複数の地理系統を用いて検証を行ないましたが,今後は選抜実験によって,幼虫期と成虫期の形質の関係をくわしく調べたいと考えています.